風鯨社の本、第4弾は、故・森本喜久男さんによる『バイヨンの月』です。
IKTT(クメール伝統織物研究所)を1996年に設立し、カンボジアの伝統的絹織物の復興と再生に取り組んできた森本喜久男さんが22年前に記した草稿が蘇ります。
カンボジア内戦で途絶えかけた伝統的絹織物。内戦を生き残った「おばあ」たちの手の記憶を甦らせ、その技術を若い世代に継承させるだけでなく、素材となる生糸や自然染料の自給と染め織りとともにある暮らしの再生を目指す「伝統の森」という村を作り上げるに至った経緯とその背景を、森本喜久男が思いのままに綴った22年前の記録に、長年森本と活動を共にし、今もIKTTに関わる編集者・西川潤が詳細な註ならびに現在に至るまでの経緯と解説を加え、書籍化となりました。
カンボジアのノロドム・シハモニ国王から「この布にはカンボジアの心がこもっている」との称賛を得るに至った絣布が生まれるまでの足跡がここに蘇ります。
巻頭のカラー口絵には、伝統の森で染織りをする人々の姿や卓越した技術で織り上げられたIKTT現在の絣布の写真を豊富に掲載。
また、本文ページには、全ページに渡り本文下段に注釈や解説をふんだんに加え、森本の当時の活動背景や詳細を知ることができるようになりました。
(担当編集者より)
改めて読み返してみると、かつてあったはずの「自然染色」技術への記述は、自然を敬う気持ちと、布が織り上がるまでの手間への愛情に満ちている。
今なお進行中の「伝統の森」再生計画は、一義的には、かつてあったはずの「村の暮らし」の復活だが、最終的にはきわめてすぐれた「循環型社会」の構築へと移行する試みの記録であり、アジアの農村で「女性たちのため」の「持続可能な発展」を試みるNGOプロジェクトの先行事例として読むこともできる。
IKTTと森本喜久男について
IKTT(Innovation of Khmer Traditional Textiles Organization)は、本書の著者である故・森本喜久男がカンボジアで1996年に立ち上げた現地NGOである。 森本はIKTTを設立し、内戦下で途絶えかけていた伝統の絹織物の復興と再生に取り組み始めた。2000年、IKTTをシェムリアップに移転。工房を開設し、研修生の受け入れを始め、若い世代への技術継承に努めてきた。さらに、シェムリアップ郊外に土地を取得し、木々を育て、絹織物の素材(自然染色の素材となる植物や蚕の飼育など)の生産から、染め織りの技術を集積し継承させる場となる「暮らしとともにある村」の実現に注力。その活動を「伝統の森・再生計画」と名づけた。 現在のIKTTは、創設者の死とコロナ禍での危機をかろうじて乗り切り、森本の思いを受け継ぎ、伝統的な絹絣の制作を続けている。
本書『バイヨンの月』は、シェムリアップで工房を開設し、「伝統の森」がかたちになり始めた時期に森本自身が書き溜めていた草稿の、日本で初めての出版である。
『バイヨンの月』著:森本喜久男
2024/10/5発売
A5版/並製本/カラー口絵付き/全232ページ/本体2455円+税
ISBN : 978-4-9911568-3-0